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NÉO - 日本語

音緒
Néo

アルバムについて

ノスタルジーと慣習、その二つが重なり合った時、私たちは現代から遠く離れているようでいて、その実心のすぐそばに潜む遥か昔という存在を感じ取り、またそこに思いを馳せるのではないでしょうか。そしてまさにその瞬間こそが、私にとって日本ならではの「懐かしさ」という概念を定義しているように思うのです。十年近く日本に住んだ中、たった一音聞いただけで懐かしさが込み上げて来る日本の様々な伝統音楽に、私は深く魅了されていきました。そんな私の心をつかんではなさない、懐かしさという感情、感覚——。それに突き動かされるようにして書いた楽曲の数々をこのアルバムに収めました。

姿形のないその感覚を追いかけ、つなぎとめるために私が選ぶのは、即興という、こちらも私が愛してやまない音楽的コンセプトです。ジャズ、インド古典音楽に近現代クラシック、さらにはジャンルを超えて複雑なリズム・ハーモニーの上に明確な主張があり、かつ心の琴線に触れる音楽を築き上げることのできるアーティストと共に、芸術性を高めあっていけるよう日々音楽と向き合っています。その先に私が目指すのは、古き日本の懐かしさと、世界中のあるあゆる音楽から培われる深い識見との融合です。そんな私の今をスナップ写真のように写し取ったものがこのアルバムとなりました。

音緒にはその字が表すように、「和音」や「音のはじめ/はじまり」、「調和した音」という意味がこめられている他、英語のneo-(新しい)にかけて、古い時代から受け継がれてきた楽器に対し、新しいアプローチを取っていきたいという姿勢も示唆しています。


メンバー紹介

アルバムに収められた楽曲を演奏するにあたっては身体的強さと音楽性の両方が要求されます。和太鼓を最大限打ち抜き、響かせるためにはアスリート並みの強靭さとスタミナが必要になる上、複雑なリズム、音楽形式に合わせて即興できなければなりません。そうした音楽センスを培うには西洋クラシック音楽やジャズ、もしくはそれ同等に高度なリズムを扱う音楽ジャンルでの鍛錬、経験が不可欠となってきます。これら二つに加え、懐かしさを音で引き出し表現するには楽器の文化・歴史的背景に対する造詣を持ち合わせていることも重要です。

このアルバムでは私の他にバーバラ・マージャン(Barbara Merjan)、田中舘 芙未、張 幼欣(Sayun Chang)が太鼓、ヴォーカル、パーカッションで参加しています。バーバラはニューヨークのジャズ・ロックシーンやブロードウェイでパーカッショニストとして活躍、田中舘は名門マンハッタン音楽院(Manhattan School of Music)にて修士号を取得しており、張は台湾の先住民音楽に精通するパーカッショニストです。この三人とは長い間共に音楽に取り組む中で、日本の伝統及び現代音楽の知識やテクニックを伝えてきました。また幾つかのトラックでは琴、三味線で東京藝術大学とバークリー音楽大学(Berklee School of Music)出身のSumie Kanekoが参加しています。

レコーディング、ミキシング、制作は私の長年の友人でもあるマーク・ウセリ(Marc Urselli)と共同で行われました。グラミー賞受賞経験があるサウンドエンジニアとしての鋭い感性を持つマークも、創作過程において大変重要な存在でした。

 

 

収録曲

1) BLOODLINES 一族
渡辺 薫 - 篠笛 (六本調子), 当り鉦 | バーバラ・マージャン - 太鼓 | 金子 純恵, 田中舘 芙未 - ヴォーカル

Bloodlines 血絆は元々私の別のアンサンブルに向けて書いた曲で、メンバーの生い立ちを朗読、作曲、即興を通して探究するというのがコンセプトでした。今回の編曲における楽器編成は一般的なお囃子と同じ太鼓、笛、当り鉦となっていますが、曲自体はむしろ変則的なリズム(7拍を4回、5拍を2回のくりかえし)に合わせた即興が主体となって構成されています。

2) DREAMS 夢
渡辺 薫 - 篠笛 (八本調子), 大締太鼓, 鐘 | 田中舘 芙未 - 太鼓, 神楽鈴, ヴォーカル |
張 幼欣- タデュック, 太鼓, ヴォーカル

日本の奥深い伝統音楽、特に能・歌舞伎の音楽は、私達が意識するところの俗世、つまりこちら側と、向こう側、夢や精神世界との境を彷徨う類のストーリーに合わせて、幽玄の世界観を扱うものが多くなっています。この楽曲は、そういった日本の音楽における美的理念を今に当てはめたものです。鳥とも鳥居とも聞こえる「と・り」を含め、明確な意味を成さない歌詞。雅楽を彷彿とさせるオープニングに続くのは、先のゆったりとした旋律を歌いながら速いテンポで刻む五拍子が特徴的な第二セクション。中間部では鳥や風の音を模すかの様な笛と鐘が響く中、台湾先住民である泰雅族, 太魯閣族, 賽德克族が使用する打楽器タデュック(tatuk)と、盆踊りでよく耳にするリズムが絡むようにして演奏されます。

3) PRISM プリズム
渡辺 薫 - 能管 | バーバラ・マージャン, 田中舘 芙未,
張 幼欣 - 太鼓

三人の太鼓奏者と能管が奏でるリズムはユニゾンでありながら、その変化する拍の等分の仕方、不規則なフレージングがプリズムを通して分散される光のように四拍子を分かりにくくしています。また、間に挟まれる即興は、元のメロディーの一節をループすることでできる非常に稀な地のリズムをバックに展開されます。

4) KAGURA GURUI (DUO) 神楽ぐるいデュオ
渡辺 薫 - 篠笛 (五本調子), 大締太鼓 | 田中舘 芙未 - 太鼓, 神楽鈴

神道の神々に奉納するために行われる神楽ですが、その音楽で使われる代表的なリズムを異なるテンポで重ね合わせることにより浮かび上がる特殊なポリリズムを私の解釈として収録しました。

5) CHIRU 散る
渡辺 薫 - 篠笛 (五本調子) | バーバラ・マージャン, 田中舘 芙未,
張 幼欣 - 太鼓

散る——、その一言だけで日本人であれば雪のごとく静かに舞い落ちては道をその花びらで染めゆく桜を思い起こします。この曲の基幹となっているのは音楽形式とその形式が散る、つまりはくずれることで見えてくる未知なる美といえます。鼓童のメンバーだった際に書き、デュオとして何年も演奏してきた曲ですが、今回のアルバムでは三人の太鼓奏者がそれぞれ三つの太鼓を用いて、聴覚・視覚的合図で自由に即興し、アンサンブル内の役割を各々が自然と創り出しては棄てるということを繰り返していく形で成り立っています。

6) TOGETHER ALONE
渡辺 薫 - 篠笛 (八本調子), 大締太鼓, チャッパ | バーバラ・マージャン, 田中舘 芙未,
張 幼欣 - 太鼓, 金子純恵 - 琴

私の妻、Mari Nakanoへ宛てて書いたこの曲は、シンプルなメロディーと即興、そして色々な11拍子のリズムが主軸となっています。オリジナルの楽器編成の下では全体的に軽快だった曲想も、即興、絡み合うインタープレイ、メトリックモジュレーション、強弱・音の厚みの急な変化など幾つものセクションを盛り込むことで、重厚かつ激しいものとなりました。

7) IKI 息
渡辺 薫- 篠笛 (三本調子), 団扇太鼓, 朗唱 | 田中舘 芙未,
張 幼欣 - 団扇太鼓, 朗唱 | リチ・アルバス, カミ・ジョーンズ, アリアナ・キム, マーク・ウセリ- 朗唱

2014年、ニューヨークでEric Garnerという名の若い男性が複数の警官により拘束され、「息ができない」と何度も繰り返す中、首を絞められたまま死に至りました。その翌年、Garnerの他にもTrayvon Martin、Michael Brownが殺された事件が引き金となり、アメリカ国内に今現在に至るまで根深く残っている制度的人種差別に対する反対運動、「Black Lives Matter」が全米各地で巻き起こりました。父親になった身として、我が子が生まれてきた今の世の中については深く考えるものがあります。毎日海へ大量の放射性廃棄物を吐き出す原子炉、銃による暴力、絶えない紛争、汚されていく地球…。

この楽曲では言語、文化、国籍の違う友人らに協力を仰ぎ、一定のテンポで刻まれる団扇太鼓にのせてそれぞれ自分の言葉で「息ができない」と朗読してもらっています。団扇太鼓というのは仏教でお経を唱える際によく打ち鳴らされる太鼓のことです。「息ができない」というフレーズは息継ぎする間も無く何分もの間繰り返される中で徐々に大きくなり、叫びへと変わっていきます。声を上げ続けなければならない演奏形態は、苦痛、さらには怖ろしさも伴い、身がすり減るような思いに晒されますが、その帰するところは平和、そしてより良い世界を願う瞑想なのです。

8) KAGURA GURUI II 神楽ぐるい2
渡辺 薫 - 大締太鼓, チャッパ, 当り鉦, 神楽鈴 | バーバラ・マージャン, 田中舘 芙未,
張 幼欣 - 太鼓, チャッパ

9) SHINOBU 梓乃舞
渡辺 薫 - 篠笛 (一本調子, 六本調子), 大締, びんざさら, 神楽鈴, 鐘 | 金子 純恵 - 琴, ヴォーカル

この曲は私の娘、梓乃舞のための子守唄です。父親になったばかりで何時間も子供をあやしていた頃は、表面上だけでも日々の練習時間を維持するために、15拍子のメロディーを静かに即興で口ずさんでいました。そのうちにメロディーの幾つかを書き留め、子守唄に仕上げました。静かだと思えばやんちゃで好奇心旺盛な娘そっくりな、多面性のある表情豊かな曲になっています。

10) REVERSE
渡辺 薫- 篠笛 (三本調子), 太鼓, 鐘, 銅鑼 | バーバラ・マージャン, 田中舘 芙未,
張 幼欣 - 太鼓, 鐘, 銅鑼

三宅島。東京の南、太平洋に浮かぶその小さな島を訪れ、古くから行われているお祭りにともなう音楽を地元の方々から学ぶ機会に私は恵まれました。今回のアルバム制作にあたり、三宅島の伝統を継承し、普及に大きく貢献している津村一家は寛大にもその使用を許可してくださいました。私なりに音楽要素を再構築していき辿り着いた形が、三宅太鼓のリズムに乗せて篠笛で吹く三宅島の木遣り歌、さらにその奥で刻むリズムが反転し、まるでオリジナルを巻き戻したかのような地打ちのビートであり、それ故のReverse リバースというタイトルとしました。

11) KAGURA GURUI III 神楽ぐるい
渡辺 薫 - 竜笛, 大締太鼓, チャッパ|バーバラ・マージャン, 田中舘 芙未,
張 幼欣 - 太鼓

12) ONE  壱
渡辺 薫- 拍子木, 篠笛 (四本調子 古典調), 神楽鈴, 大締太鼓, 団扇太鼓, 桶胴太鼓, 締太鼓, 能管, 雨団扇

ニューヨークのセント・ジョン・ザ・ディヴァイン大聖堂での演奏のために書き下ろしたソロ曲で、天井が約38メートルもある大規模な石造りの建物の中に木霊する太鼓・笛の音はまさに圧巻でした。この曲の根底にあるのは、聖堂と私が演奏する日本の楽器、そのどちらもが人間という個と神々、文化、信念、それを取り巻く世界をつなげるために存在しているという概念です。

謝辞

宮本卯之助商店
ケニー遠藤とご家族の皆様
On Ensemble
蘭情
渡辺 杳、絢子
中野家の皆様
渡辺家の皆様
三宅島の津村家の皆様
望月左武郎と石塚家の皆様
鼓童
シルクロードアンサンブル
ジェイソン・モラン、アリシア・ホール・モラン
イマニ・ウズリ(Imani Uzuri)
アダム・ルドルフ

バーバラ、芙未、幼欣、純恵、マーク、リチ(Richie)、アリアナ、カミ
エヴァン・シュノール(Evan Schnoll)
芝山 千紘

レコーディング&ミキシング・エンジニア:マーク・ウセリ
制作:渡辺薫、マーク・ウセリ
録音:イーストサイド・サウンド 2015年9月
アルバムデザイン:Mari Nakano
写真:ダニエル・トーレス

献辞

Mariと梓乃舞へ

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